3 日本を飛び出しイギリスへ

実家暮らしを2年ほど続けて、再び一人暮らしを始めた。
兄夫婦が実家に入るなど、いろいろあってのことだった。

ぼんやりとした毎日を過ごしていたある日のこと。
イギリスの大学留学の条件が変わったことを知る。
「日本の大学・短大卒業」から「日本の高校卒業」に変わったのだ。

その知らせを聞いた瞬間、目の前に大きくて広い道がぱあっと広がるのを感じた。

「留学したい」

再び強い欲求がこみ上げてきた。

夢に向かってがむしゃらに働く

その日から私は、パートの仕事を2つ掛け持ちして、可能な限り働いた。
そして、空いた時間に留学に必要な情報収集をする毎日。

どうやって留学できるのか、留学したらどんな未来が待っているのか。
それを考えることが本当に楽しかったし、私の唯一の支えだった。

けれども、現実的になればなるほど不安が押し上げてくる。
イギリスの大学に留学するおよその流れは、つかんだ。
必要な書類も確認した。
TOEFULかIELTS(どちらも英語力のテスト)のテストを受ける必要がある。

けれども、大学で授業についていけるほどの英語力をつけるにはどうしたらいいんだろう。

どんなことがあってもイギリスの大学に進学したい、でも本当に私にできるのだろうか。

こんなふうに、留学後の自分を思い描いて幸せな気持ちになる日もあれば、不安に押しつぶされてどうしようもなく不安定になる日もあった。食べている時だけ、安心感を得られた。今思うと食べることで不安を紛らわしていたのかもしれない。

「やっぱり私には無理だ」

私にとってイギリス留学は、これまでの生活から180度変わることを意味した。
そう簡単に変えることはできない。それはわかっている。

けれどもいろいろな要因が重なって、気持ちだけが先走って何も変わらない。
そんな現状に、もどかしさは募るばかりだった。

こんな私がイギリスの大学に進学するなんて無謀過ぎる。
私は、このまま惨めな人生を送っていくだけなんだ。
他の人は自分の夢をかなえられるのに、なぜ私はダメなんだろう。

そんな状態が何年か続いた。
私は25歳を過ぎた。

友人や身内の結婚ラッシュが続き、「自分も結婚した方がいいのだろうか」との意識が芽生える。
特定の彼氏はいなかったが、真剣に言い寄られている人も何人かいたし、いい職業についている人からのお見合いの話もあった。

「望まれて結婚するのが一番いいよ」
そうかもしれない。夢なんて追いかけずに、結婚して安定した生活を送るのがいいのではとの考えが、ふとよぎることもあった。

でも、どうしてもその気になれない。
相変わらず食べて吐く生活は、ほぼ毎日続いていた。

留学できるかどうかまったく先が見えずいろいろな選択肢を考えるのだが、結局「このままでいたら、自分が壊れてしまう。日本を出なければダメだ」という気持ちに立ち戻るのだった。

チャンスはある日突然に

望むことがかなうにはタイミングがあって、どのくらい時間がかかるかわからない。
けれども、タイミングが来るとトントン拍子に決まるものだ。

留学したいと願い続けて数年経っていたが、気がついたら仕事を辞めるめどがつき、両親の理解も得られ後は留学の準備を進めるだけとなっていた。あれだけ長年苦しんでいたことが嘘のように感じられた。

必要な書類を提出して結果を待つ。
3校申し込み、3校とも合格通知をもらった。
その中で、一番行きたいと思っていた大学を選んだ。

そこからは本当にあっという間だった。

大学入学に向けて準備をし、私は生まれ育った日本を後にした。