2 海外留学という選択肢

地元に戻った私は、パートの仕事を見つけて働き始める。
勤め先のオーナーもスタッフも皆いい人たちで、働きやすかった。

パートさんの1人とは、年齢は離れていたもののとても気が合った。休み時間にいろいろな話で盛り上がったことは、今振り返ってもいい思い出だ。

続く摂食障害

実家暮らしになったので以前よりも食べて吐くことは控えめになったが、完全に消えたわけではない。
皆が寝静まった後冷蔵庫を物色して食べ、トイレに直行する。
「もう、こんなのいやだ。明日は絶対にやめよう」と心に固く誓うが、強烈な食欲に負けて同じことを繰り返して落ち込む毎日。

職場は環境も給料も良く、不満はない。家族と共に暮らしているので、一人ぼっちということもない。家族はいつも私を温かく迎い入れてくれる。ただ、常に寂しさや虚しさといった気持ちが私の本音だった。けれども、なぜそんな気持ちを抱くのか理由が分からない。

楽しみを見つけようといろいろと試してみたが、何をしても心が晴れることはなかった。私は何が不満で、何に悩んでいるんだろう。なぜ食べて吐いてばかりいるんだろう。こういう不満との関係はあるのだろうか。

私が吐いてばかりいることに、母は気づき始めた。
胃腸に問題があると思った母は、バリウム検査を受けるようにすすめる。
もしかしたら母のいうことも一理あると思い、検査を受けてみた。が、バリウムを飲んでも私の異常はどこにも見つからなかった。

自分が摂食障害にかかっていることは、この時点でも気づいていなかった。精神的なことが原因だと知ったのは、ずっと後になってのことだ。もし、この時に摂食障害だと気づいていたら、どんな治療を受けたのだろうかと考えると、少し興味深いものがある。

留学したい。

ある日テレビで字幕付きの映画を観ていた時、英語でペラペラ話している様子に憧れみたいな気持ちが出てきた。

「私もあんなふうに英語で会話がしたい」。
最初はそんな小さな気持ちだった。それが日に日に大きくなって日本で英会話学校に通うのではなく、英語圏に留学して英語を学びたいと思うまでになったのだ。

当時はインターネットはなかったので、情報源は本屋。英語留学の雑誌を買い込み、ワクワクしながら読みふけった。
私が目指したのはイギリス留学。アメリカも考えたが、銃社会という点がどうしても嫌だったことと、英語の元祖であるイギリスに憧れがあったからだ。

イギリスの大学に留学した人の体験談は、つらいことも楽しいことも私にとって全て刺激的だった。一念発起して留学という選択をした社会人の体験談は、特に興奮させられた。自分も英語で学ぶことができたら、どんなに幸せだろう。

しかし、自分はイギリスに留学に必要な条件を満たしていないことが分かった。それは、イギリスの大学に留学するには、日本の短大または大学卒以上の学歴が必要だったのだ。
「やっぱり私には留学は無理なんだ……」

こうして、イギリス留学への夢は絶たれた。